「ハーム・リダクション」。大麻先進国オランダの薬物依存への考え方とは
ただ、欧米ではあえて一部薬物の使用を合法化することで全体の薬物依存者を抑制する、「ハーム・リダクション(Harm Reduction)」という新しい考え方が広がっています。
今回は、そんな「ハーム・リダクション」について、『大麻入門(幻冬舎、著:長吉秀夫)』から一部内容を抜粋してご紹介します。
目次
「ハーム・リダクション」の導入
オランダには、アヘンやヘロインなどの麻薬を、不正に取引することを罰する法律はあるが、それは麻薬の供給を減少させることが目的であった。つまり、オランダの法律は、麻薬を使用してダメージを受けてしまった国民を処罰する目的で作られたものではないのだ。
このような考え方の背景には、現実的な手段を使用して、市民を社会の危険から守るために考え出された、「ハーム・リダクション(Harm Reduction)」という概念の存在がある。現代の欧米では様々な場面で、このハーム・リダクションが導入されている。
欧米では一般的になりつつある対策
ハーム・リダクションという概念は、日本人には少々理解しがたいかもしれない。
例えば、未成年者へのエイズの蔓延を抑えるために、性交渉を抑圧するのではなく、積極的に性教育をおこない、場合によってはコンドームを配布することで危険を回避することなどが、ハーム・リダクションに該当する。
1本の注射器によるヘロインの回し打ちも、HIVやその他の感染を引き起こすが、それを予防するために欧米では、繁華街やリハビリ施設などで、注射針を配布することがおこなわれている。これらの行動は、一見矛盾したことのように見られがちだが、現実的な問題解決のためには、大変有効な手段なのである。
日本のハーム・リダクション的対策
一方、日本では、薬物使用から派生する問題に対してのハーム・リダクション的対策が、完全に遅れている。
1989年以降、再び増加傾向を続けている覚せい剤検挙者数は、2007年度は1万2000人を超えている。日本の行政は、実際にはこの数倍は存在するであろう覚せい剤使用者に対してのハーム・リダクションを、全くおこなっていない。
それどころか、中毒患者を心身ともに治療する病院すらないのが現状である。現実的には、「ダルク」などの民間の薬物依存症リハビリ組織が活動しているだけだ。
現在の日本は、ヘロインの使用者は少ないが、覚せい剤中毒患者や使用者の数は、世界的にも多いと推測されている。このような状況をみても、日本は一刻も早く、覚せい剤問題に対しての対策をとるべきである。そして、大麻についても、それを厳罰化することで生じる社会的有害性を回避するための方法論として、「非犯罪化」というハーム・リダクションを検討すべきである。
大麻「非犯罪化」で社会が安定したオランダ
さて、ヘロインやアンフェタミン中毒の問題を抱えていたオランダ政府は、その法的解決策の一貫として、1985年に大麻規制に関する非犯罪化をおこなった。
大麻の少量所持に対しての告発は、慎重におこなわなければならないとすることから生まれたこの法律は、少年を含む国民が一回の逮捕で人生を台無しにしてしまわないように考えられたものである。
オランダに先駆けて非犯罪化した、アメリカの州政府
この非犯罪化という法的なアプローチは、オランダに先駆けてアメリカの州政府によって実施された経緯がある。アメリカでは、1967年から1974年にかけて、ネバダ州以外のすべての州で大麻の単純所持の軽罪化がおこなわれた。しかし、ニクソン政権におけるドラッグ政策によって、再び大麻はヘロイン並みの規制対象となる。
これに対してオランダは、大麻の徹底した非犯罪化政策を現在もおこなっており、大麻規制の見直しとともに、他の麻薬への現実的な法的対処方法についても、常に先進的な政策を実施して欧州文化圏をリードしている。
オランダの非犯罪化政策では、ヘロインやアンフェタミンを「ハードドラッグ」、大麻を「ソフトドラッグ」に区別して取り締まっており、少量の大麻所持と決められた場所での使用は罪には問わない。
公認の販売店「コーヒーショップ」
大麻の購入場所としては、政府公認の「コーヒーショップ」という名の販売店で、規定量以内の大麻を購入することができる。これによって、国民のハードドラッグへの関心を低く抑えるとともに、ハードドラッグにかかわる危険な状況への接触を回避させることで、犯罪が発生することへの抑止力になると考えたわけである。
オランダ国家の自己責任方針による成果とは
オランダが提唱し、実践する大麻の非犯罪化は、大麻を麻薬と位置付けて厳しく罰することで、使用者に道徳価値を強制するのではなく、社会に適応させることで統制していくという考え方である。つまり、闇雲に麻薬を奨励しているのではなく、健康管理と社会の安全を構築するための行動を、国民が自己責任の上でおこなえる機会を与えているということである。
これらの考え方は、社会福祉や安楽死などについてのオランダのスタンスと根本的に同じである。オランダでは、大麻の非犯罪化を実践することにより、他国に比べてハードドラッグに関連する事件や事故は減少しており、これは特筆すべき事実といえるだろう。
国内外の大麻草の真実を知れる本、『大麻入門』
有名俳優の逮捕によって、注目を集めている「大麻」。
現在の日本では「危険な薬物」というイメージが強いですが、ヨーロッパをはじめ先進各国では、レクリエーション目的のみならず、エネルギー、環境問題などさまざまな分野で、その有用性が認められています。
大麻とはそもそも何なのか?
どんな可能性を秘めているのか?
今回の内容は、そういった大麻のすべてがわかる『大麻入門』(幻冬舎、著:長吉秀夫)からご紹介しています。
あらすじ・概要
戦後、GHQ主導による新憲法の下で初めて規制された大麻は、遥か太古から、衣食住はもちろん医療や建築、神事など、日本人の生活になくてはならないものだった。1948年に施行された大麻取締法は、当時の政府が大麻産業を奨励していたためか、立法目的が明記されないまま現在に至っている。一方で、欧米諸国では所持・使用の非犯罪化が進み、医療やバイオ・エネルギーなど様々な分野での研究が盛んだ。国内外の知られざる大麻草の真実とは?
著者:長吉秀夫
出版社:幻冬舎
購入ページはコチラ。(幻冬社サイトページへのリンクになります。)
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この記事を監修した人
CBD JAPAN 編集部
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