てんかんにタバコは影響する?お酒・コーヒー・エナジードリンクは?
学ぶ
2024年7月25日

てんかんにタバコは影響する?お酒・コーヒー・エナジードリンクは?

てんかんがある方の中には「タバコにより発作が誘発されるのではないか」と不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本記事では、タバコをはじめとする嗜好品がてんかんに及ぼす影響について解説します。またてんかんの概要、てんかんに影響を及ぼす状況、てんかん発作の予防法などについても紹介します。

そもそもてんかんとは? 

てんかんとは、てんかん発作が繰り返し起きる脳の病気です。私たちの脳では神経細胞の電気活動により電気が流れており、思考や動作を営んでいます。

この電気の流れが過剰になって脳からの情報が一時的に停止したり、混乱したりすると、突然意識を失って反応しなくなる、けいれんするなどのてんかん発作として現れます。(※1)

てんかんの有症率は約100人に1人と、神経疾患の中では高めです。また乳幼児から高齢者までどの年齢層でも発病する可能性があり、決して珍しい病気ではありません。(※2)

原因 

てんかんは原因が不明な「特発性てんかん」と、原因が明らかな「症候性てんかん」に分けられます。

特発性てんかん 脳に障害や損傷がみられないにも関わらず起きる原因不明のてんかん
症候性てんかん 先天性奇形、髄膜炎や脳炎などの脳の感染症、脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、アルツハイマー病など、脳に何らかの障害や損傷があることにより起きるてんかん

なおそれぞれの全体に占める割合は特発性てんかんが約6割、症候性てんかんが約4割となっており、原因不明の特発性てんかんの割合が高くなっています。

(※3、4)

発作の種類 

てんかんは発作の観点から「部分発作」と「全般発作」に分けることもできます。

部分発作とは電気的興奮が脳の一部から始まる発作のことで、「単純部分発作」「複雑部分発作」「二次性全般化発作」の三つに分けられます。

全般発作とは脳全体が興奮状態になる発作のことで、「強直間代発作」「脱力発作」「欠伸発作」「ミオクロニー発作」の四つに分けることができます。

発作の種類 症状の例 意識状態
部分発作 単純部分発作 手足や顔が突っ張る

ガクガクとけいれんする

光や色が見える

人の声が聞こえる

片側の手足がしびれる

吐気をもよおす

など

意識あり
複雑部分発作 動作が停止する

手足をモゾモゾ動かす

口をモグモグさせる

体をバタバタさせる

自転車を漕ぐように動く

など

意識障害、記憶障害
二次性全般化発作 発作後半は全般発作の強直間代発作と似ている

(単純部分発作や複雑部分発作から脳全体に広がり、全般発作の強直間代発作に進展するため)

意識なし
全般発作 強直間代発作 意識を失いけいれんする

呼吸が停止する

手足を伸ばして全身が硬直する

歯を食いしばる

発作後は眠ったり意識がもうろうとしたりする

など

意識なし
脱力発作 突然全身の力が入らなくなり、崩れ落ちるように倒れる

など

持続時間は数秒以内とごく短時間

意識なし
欠伸発作 突然動作が停止する

ボーッとする

話が途切れる

反応がなくなる

など

主に小児期に発症

意識なし
ミオクロニー発作 突然手足や全身がビクッとけいれんする

寝起きによく起きる

一般的に意識消失は伴わない

(※2、5)

てんかんにタバコは影響する?

タバコを吸うことでてんかん発作が誘発されるというデータは見当たりません。しかしいくつかの動物実験では、タバコの成分であるニコチンがけいれん発作に関係するというデータが得られています。

例えば大阪薬科大学がマウスに高用量のニコチンを投与する実験を行ったところ、けいれん発作が誘発されました。(※6)

もちろんこれは動物に対して行った実験であるため、この結果だけを見ててんかんにタバコが影響するとは言い切れません。

しかしタバコを吸うとがん、呼吸器疾患、消化器疾患、歯周病などさまざまな病気のリスクが高まると言われているため(※7)、健康面を考えてもタバコは控えた方が良いと考えられます。

タバコ以外のてんかんに影響を及ぼす嗜好品は?

タバコの他にも味や風味を楽しんだり、リフレッシュや気分を盛り上げたりするための嗜好品はあります。

これらの嗜好品の中には抗てんかん薬の代謝に影響を及ぼす、あるいは睡眠不足を引き起こすことにより、てんかん発作を誘発するものもあるため注意が必要です。

ここでは私たちが口にすることの多い主な嗜好品と、てんかんとの関係について解説します。

お酒 

てんかんとお酒は相性が良くないとされています。お酒に含まれるアルコールは抗てんかん薬の代謝に影響し、眠気やふらつきを強める可能性があるからです。(※8)

またアルコールは睡眠後半の深い睡りを減らしたり、夜中に目覚めて再び寝つくのに時間がかかる中途覚醒を増やしたりもします。(※9)

睡眠不足はてんかん発作を誘発すると言われているため(※10)、しっかりと睡眠をとるためにもてんかんのある方は飲酒を控えるのが基本です。

仕事などでやむを得ない場合は口をつける程度にするなど、できるだけ飲まないで済むように工夫をしてみましょう。

コーヒー

コーヒーについては、てんかんのある方でも常識の範囲内で飲むのは構いません。(※10)

ただしコーヒーに含まれるカフェインは、中枢神経を刺激して覚醒作用をもたらします。(※11)そのためコーヒーを過剰に飲んだり、就寝前に飲んだりすると睡眠不足になって、てんかん発作が起きやすくなる可能性があります。

コーヒーを1日に飲む量は2〜3杯(237mlのマグカップで)までがおすすめです。実際にカナダでは、保健省により1日のコーヒー摂取量が2〜3杯までと定義されています。(※12)

また15時以降はできるだけコーヒーを飲まない方が良いとも考えられます。(※13)コーヒーの半減期が約3〜7時間と言われているからです。(※11)

ただし上記は健康な成人の目安となります。カフェインから受ける影響は個人差が大きいため、上記の量や時間を守っても寝つきにくくなったり、睡眠の質が低下してしまったりする可能性がないとは言い切れません。

上記はあくまで目安とし、日中に眠気を感じる場合は飲む量や時間を調節していきましょう。

エナジードリンク

エナジードリンクにはカフェインが含まれているため、常識の範囲を超えて飲むのはおすすめできません。

エナジードリンクの中には、コーヒー約2杯分に相当するカフェインを含むものもあります。(※14)そのため1日に何本も飲むと睡眠不足が引き起こされ、てんかん発作の原因となる可能性があるのです。

また香港食物環境衛生署食物安全センターからは、複数の国でエネルギードリンクの不適切な飲用が原因と疑われるてんかんが発生しているという情報も発表されています。

アルコールを含む飲料を同時に飲む、推奨量を上回って飲むなど不適切な飲み方をすることにより、エネルギードリンクがてんかんの原因になり得ることが示唆されています。(※15)

このような情報が出ていることからも、エナジードリンクの過度な飲用は控えるべきです。

てんかんに影響を及ぼす状況は? 

嗜好品を口にする以外にも、てんかんに影響を及ぼす状況はあります。

ここではそれぞれの状況について解説しますが、ある状況が単独で発作を起こしやすくするというより、複合的に作用して発作が起きるケースが多いのではないかという医師の意見もあります。(※16)

複合的に影響している可能性も念頭に置きながら、過去に発作が起きた時の状況を考えてみてください。

睡眠不足 

睡眠不足は、単独でもてんかん発作を引き起こす原因になると言われています。

例えば午前3時を過ぎてから寝ると翌朝必ずけいれんが起きる、3日以上続けて午前1時すぎまで起きているとけいれんが起きるなど、発作が引き起こされる状況は人によって異なります(※16)

そのため自身の経験から発作を引き起こしやすい睡眠のパターンを把握し、それを避けるようにすることが大切です。

運動 

運動がてんかん発作のきっかけになるかについては、はっきりとしたことは分かっていません。むしろ運動により発作が抑えられるのではないかという意見も多く見られます。(※17)

また医師の中には、運動の最中よりも運動が終わって一休みしている時や、何日もハードな運動を続けて疲労が溜まった時などに発作が起きやすいと言う人も多くいます。(※16、※17)

ただしこれは、あくまで運動の最中に発作が起きる可能性が低いことを示唆しているだけで、全く起きないというわけではありません。

そのため運動の最中に発作が起きて怪我を負うリスクについては、考慮する必要があります。

特に川で泳ぐ、スキューバダイビングをするなど、万一発作が起きた時に救助しにくい運動については、取り組むかどうかを慎重に検討するべきです。

また何日にもわたって過度な運動を続けることも避けた方が安心です。しっかりと休息を取れるように無理のないスケジュールを組むなど、疲労を溜めない工夫をしましょう。

発熱 

てんかんがある方の中には、体温が上昇する時にけいれん発作を起こしやすい方がいらっしゃいます。そのため感染症などにより発熱した際には注意が必要です。

発熱時の発作は体温が上昇する時に起き、上昇しきってしまえば起きることは少ないと言われています。

解熱剤などにより無理に体温を下げると、薬の効果が切れて熱が再上昇する際にけいれん発作を起こす機会をつくってしまうことになりかねません。体温調節は慎重に行いましょう。(※16)

抗てんかん薬の中断

抗てんかん薬を飲むのを急にやめると、けいれん発作が止まらなくなる恐れがあります。そのため抗てんかん薬は、毎日決められた量をきちんと飲むことが大切です。

もし飲み忘れてしまった際には、気づいた時点で1回分を飲み、次の薬の時間が近い場合、次の分は1時間から数時間遅らせて飲むようにします。

忘れた分をとばして飲まないままでいると、発作が起きやすくなるため注意してください(※10)

また抗てんかん薬を減薬したり、種類を変更したりする際には必ず医師の指示に従いましょう。

突然飲むのをやめたり、違う種類に切り替えると発作を引き起こすため、医師の指示のもとで計画的に減薬、変更する必要があります。(※16)

てんかん発作は予防できる? 

てんかんに影響を及ぼす嗜好品や状況について解説してきました。ここまでご覧になった方の中には「発作に関係するさまざまな因子を知って不安が強まってしまった」という方がいらっしゃるかもしれません。

しかしそんな方には、てんかんはコントロール可能な病気であるということを知っていただきたいです。

実際にてんかんがある方のうち約80%の方が、何らかの方法で発作をコントロールされています。(※18)

必要以上に不安がらず、自分に合うコントロール方法を見つけて前向きに毎日を歩んでいくことが大切です。ここではてんかん発作のコントロール方法を紹介しますので、参考にしてみてください。

発作の誘因回避 

ここまでに紹介してきた通り、睡眠不足や疲労などてんかんには発作を引き起こす可能性のある因子、すなわち発作の誘因があります。

自分にとってどんな誘因があるのかをしっかりと把握し、その誘因を回避するように生活することで、てんかん発作はある程度予防可能です。

発作の誘因を把握するには「発作日記」が役立ちます。発作が現れた日時と一緒に発作前の状況や発作の起きる前にとっていた行動、体や心の状態なども記入しておきましょう。

一定の期間記録したら、発作の状況や発作に関する共通点について比較して誘因を同定します。(※19)

例えば部活でハードな練習が続いて疲労を感じている時に発作が起きやすいなら、途中に休みをもらえるよう顧問に掛け合うというのは一つの手です。

また抗てんかん薬の飲み忘れが多いなら、目立つ場所に壁掛けの薬カレンダーを設置するのも良いでしょう。その日に飲む薬をクリアポケットに入れて見える化できるため、飲み忘れ防止につながるかもしれません。

このように具体的な誘因回避法を考えるために、発作日記による誘因の同定は大変意義のあることです。

投薬などによる治療 

適切な方法で治療することも、てんかん発作を予防する上でとても大切なことです。てんかんの治療法としては「薬物療法」「外科治療」「ホルモン療法」「食事療法」などが挙げられます。(※20)

中でも抗てんかん薬の内服による薬物療法は選択されることの多い治療法で、てんかんがある方のうち約8割に効果があると言われています。(※21)

まずは医療機関を受診して、医師と一緒に自分に合う治療法を探っていくことが大切です。

発作の前兆把握 

てんかん発作が起きる前に、前兆(オーラ)と呼ばれるある種の感覚や感情を生じることがあります。

例えば体温の変化を感じる、不安を感じる、幻聴を生じる、胃のあたりに不快感を覚える、手がムズムズするなどです。

前兆は主に部分発作がある方に現れ、全ての方に現れるわけではありません。しかし発作が起きる前に奇妙な感覚があったものの、それを前兆とは考えていなかったという方もいらっしゃいます。

そのため「発作日記」には発作が起きた時に感じた全てのことを書き留め、前兆を同定していくことが大切です。

てんかんがある方の中には前兆が生じた際に何らかの処置をし、発作を抑えることに成功している方もいらっしゃいます。

例えば手がムズムズする前兆を感じたら、両手を擦り合わせたり、握り拳をつくったりといった具合です。(※19)

前兆の対処法を見つけることができれば、発作への不安も減らせるはずです。まずは発作日記をつけて、前兆の同定をしてみましょう。

まとめ 

てんかんにタバコが直接影響するというデータはありません。

しかしニコチンがけいれん発作を誘発する可能性については、動物実験により示唆されています。またタバコを吸うと健康に悪い影響を及ぼす可能性があることは、広く知られるところです。

これらのことを総合的に考えると、禁煙を目指すのが良いでしょう。

タバコの他にも嗜好品の一部には、睡眠不足を引き起こしたり、抗てんかん薬の代謝に関与したりすることで、てんかんに悪い影響を及ぼす可能性を持つものもあります。

また睡眠不足や抗てんかん薬の飲み忘れなど、てんかんに影響を及ぼす状況もあります。

「発作日記」を上手に活用するなどして、自分の発作がどんな物や事により引き起こされるのかを同定し、それらを回避することでてんかん発作を上手にコントロールしていきましょう。

参照:

※1.もし、突然倒れたら……?身近な病気「てんかん」|サワイ健康推進課

※2.てんかん|日吉台病院

※3.てんかん発作|水谷脳神経外科クリニック

※4.てんかんについて|てんかんネット

※5.若年ミオクロニーてんかん|はしぐち脳神経クリニック

※6.ニコチンによるけいれん発現のメカニズム解析|日本毒性学会学術年会

※7.たばこを吸うと、どのような病気にかかりやすくなるのですか。|千葉県

※8.抗てんかん薬を内服していても、お酒は飲んでも大丈夫でしょうか?|てんかん情報センター

※9.お酒を飲むとぐっすり眠れる?|NCNP病院

※10.第4章 日常生活の過ごし方|てんかん情報センター

※11.コーヒー(カフェイン)と不眠症の関係、睡眠への影響について解説|板谷内科

※12.食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A〜カフェインの過剰摂取に注意しましょう〜|厚生労働省

※13.カフェインに対する向き合い方〜15次以降のカフェイン摂取を避けよう〜|睡眠プライマリケアクリニック池袋

※14.カフェインの過剰摂取について|農林水産省

※15.食品安全関係情報詳細|食品安全委員会

※16.てんかんのある人の日常生活|日本橋神経クリニック

※17.てんかんのある子の日常生活|ぜんち共済株式会社

※18.てんかん治療|千葉大学大学院医学研究院 脳神経外科学

※19.自己コントロールとは|てんかん情報センター

※20.てんかんの治療は|岡山大学病院 てんかんセンター

※21.てんかんと診断された方へ|千葉県循環器病センター てんかんセンター

 

この記事を監修した人

CBD JAPAN 編集部

CBD JAPANは2021年10月に設立された企業で、「心身の本来の力を引き出し、健康で明るい社会を作る」というミッションを掲げています。コラムは全て下記の監修者のもとで、コンテンツ制作ポリシーに従い制作しております。

おすすめ商品一覧