高齢者のてんかんとは?要介護認定や障害者手帳などの介護・福祉サービスも紹介
高齢者のてんかん発作はけいれんを伴わないことも多く、若年者のてんかんと比べて診断が難しくなりがちです。
認知症と間違われてしまうなど、見逃されてしまうことも少なくないため、ご家族が高齢者のてんかんについて正しく理解した上で、医師にしっかりと症状を伝えることが大切になります。
本記事では高齢者のてんかんについて解説します。またてんかんの方や高齢者が利用可能な介護・福祉サービスについても紹介しますので、併せて参考にしてください。
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目次
高齢者のてんかんとは?
てんかんとは、脳の神経細胞に突如として電気的な興奮が起き、けいれんなどの激しい発作を生じる病気です。
人種や性別、そして年齢に関係なく発症するため、高齢者に見られることもあります。
高齢者のてんかんには、2つのタイプがあります。過去に発症したてんかんが継続しているものと、高齢になってから新たに発症したものです。
本記事では、高齢(65歳以上)になって新たに発症したてんかんについて解説します。
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高齢者のてんかんは多い?
高齢者がてんかんを発症するケースは、決して珍しくありません。
現在、日本における高齢者のてんかん有病者数は30〜40万人に上ると言われています。これは全てのてんかん患者さんの約1/3に当たる数です。
またてんかんの発症率は高齢になるほど増加するのではないかとも見られています。
欧米の研究においては、てんかんの年間発症率は10歳以下の小児よりも70歳以上の高齢者の方が高く、70歳以上の場合10万人に100人(1%)以上、80歳以上の場合10万人に150人(1.5%)以上という結果が得られています。
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高齢者のてんかんの原因と症状は?
てんかんは原因が明らかな 「症候性てんかん」と、原因が不明な「 特発性てんかん」に分けられます 。(※3)
高齢者のてんかんは、脳血管障害、頭部外傷、アルツハイマー型認知症、脳腫瘍などによる症候性てんかんが 2/3を占め、 残りの1/3が原因不明の特発性てんかんとなっています。(※1)
症状としては、一時的にぼんやりする、急に動きが止まる、物忘れが数分〜数時間続く、ふらふら歩き回るなどです。
てんかんというと、全身の激しいけいれん発作をイメージする方が多いかもしれませんが、高齢者の場合はそうしたけいれんを伴わない発作が多くなります。(※4)
【高齢者のてんかんに多い症状(個人差があります)】
- 一時的にぼんやりする
- 反応がない
- 動きが止まる
- 口をモグモグさせる
- ふらふら歩き回る
- 物忘れが数分〜数時間続く
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高齢者のてんかんの診断は?認知症と間違われやすい?
高齢者のてんかんは、けいれん発作を伴わないことも多いため、診断が難しいという特徴があります。
さまざまな病気と間違われてしまうケースも珍しくなく、中でも誤診されやすいのが認知症と言われています。(※1)高齢者のてんかんの中には、認知症を原因とするものもあるからです。(※1)
また一点を凝視したまま反応しなくなるなどの意識減損や、口を動かしてペチャペチャ音を出すなどの自動症といった症状が、認知症のそれとそれと似ていることも誤診を引き起こす要因となっています。(※5)
正しい診断結果を得るためには、てんかんの診療に詳しい医師に診てもらうことが大切です。
神経内科、脳神経外科、精神科の受診が推奨されますが、可能であればてんかんの診療に専門性を有する、日本てんかん学会認定のてんかん専門医に診てもらうのが望ましいです。(※5)
なお高齢者に対するてんかんの診断は、問診、脳波測定、画像診断などにより行われます。特に問診については、患者さんご本人に発作中の記憶がないことも多いため、ご家族など周囲の方の証言が大切になります。(※2)
【高齢者のてんかんの診断方法】
- 問診
診断の基本です。発作中の様子や、声掛けに対して反応があったかなど、周囲の方ができるだけ詳細な情報を医師に伝えられるかがポイントになります。
発作時の様子をスマートフォンなどで録画しておくのもおすすめです。
- 脳波測定
高齢者のてんかんでは、脳波によりてんかんを見つけられる割合が30〜70%と、高い割合とは言えません。そのため場合によっては、繰り返し脳波検査をする可能性があります。
また脳波の異常は睡眠時のみに見られる場合も多く、睡眠時にもチェックができるよう、長時間に渡り検査をすることもあります。
- 画像診断
てんかんの原因を診断するために、脳の画像検査を行います。多くの場合、MRI検査が適切とされます。
(※2、※6)
高齢者のてんかんの治療法は?
高齢者のてんかんは見つけるのが難しいものの、発見されれば程度によっては治療によりコントロールも可能です。
てんかんの治療法には、薬物療法、外科治療、ホルモン療法、食事療法などがありますが、中心は抗てんかん薬による薬物療法です。(※7)
特に高齢者のてんかんでは、抗てんかん薬の治療反応が良好であることが分かっており、発作の寛解率は70〜80%と言われています。
抗てんかん薬を高齢者に使用する場合は、副作用に注意する必要があります。
多くの抗てんかん薬に見られる副作用として、眠気、ふらつきが挙げられるため、転倒により骨折をしないよう、ご家族や周囲の方は十分に気をつけてください。(※5)
てんかんの方や介護が必要な高齢者に対する支援サービスは?
てんかんにより、日常生活に困難を感じたり、継続して医療機関を受診することに負担を感じたりする方は多いはずです。
日本には、そうした方をサポートするための「精神障害者保健福祉手帳」や「自立支援医療制度」といった制度があります。
また介護が必要な高齢者に対するサポートとして、要介護認定による「介護保険制度」というものもあります。
ここからは精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療制度、介護保険制度(要介護認定)について解説しますので、てんかんの方や高齢のご家族がいる方は参考にしてみてください。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、取得者が一定の障害状態にあることを証明するものです。
1級から3級までの等級に分かれており、等級に応じてさまざまな就労支援サービスや日常的なサービス、税金面での優遇などが受けられます。
【精神障害者保健手帳により受けられるサービスの例(等級によっては受けられないものもあります)】
- 障害者職場適応訓練の実施
- 所得税、住民税、相続税、自動車税の減免
- 利子の非課税
- NHK受信料の減免
- 携帯電話基本使用料の割引
てんかんは精神障害者保健福祉手帳の対象ですが、てんかんのある方全てが申請できるわけではないので注意が必要です。
【精神障害者保健福祉手帳の申請条件】
- てんかんを含む何らかの精神科の病気があり、長期にわたり日常生活や社会生活に障害がある
- 病院に初めてかかった日から6カ月以上経過している
申請は市区町村の担当窓口で行います。手続きには申請書や医師の診断書などが必要になるため、事前に担当窓口やかかりつけの医療機関を訪れて、必要書類を揃えておきましょう。
担当窓口にて申請を済ませると、都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターで等級などの審査が行われ、認められると手帳が交付されます。
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自立支援医療制度
自立支援医療制度は、精神科の病気の人に対して、病院や診療所(クリニック)でかかる医療費の一部を公費により負担する制度です。
【自立支援医療制度により受けられるサポートの例】
- 病院や診療所(クリニック)において、入院以外の医療費(公的保険適応)の自己負担が1割になる
- 所得に応じて1カ月あたりの医療費の上限額が定められ、それを超えた分を支払う必要がなくなる
てんかんを含む精神科の病気で、通院治療を続ける必要がある方は誰でも利用できます。
ただし申請時に登録した医療機関以外は対象にならないため、注意が必要です。なお登録できるのは、都道府県または指定都市が指定した医療機関のみです。
申請は市区町村の担当窓口で行います。手続きには申請書や医師の診断書などが必要になるため、事前に担当窓口やかかりつけの医療機関を訪れて、必要書類を揃えておきましょう。
受給が認められると「自立支援医療受給者証」と「自己負担額上限額管理票」が交付されます。医療機関の利用時には、この二つを毎回提示してください。
(※8)
介護保険制度(要介護認定)
寝たきりや認知症などで、常時介護を必要とする状態を「要介護状態」と言います。
また家事や身支度などの日常生活に支援が必要で、特に介護予防サービス(要介護状態に陥らないように、生活機能の維持、向上、改善を目的とするサービス)が効果的な状態については「要支援状態」と呼びます。
介護保険制度は、要介護状態や要支援状態の方が介護サービスを受けられる制度です。
そしてその方が要介護状態や要支援状態にあるかどうか、どれくらいの介護サービスを行う必要があるかを判定するのが、要介護認定になります。
要介護認定の申請は市区町村の担当窓口で行うことができます。申請の際には介護保険被保険者証や医療保険証が必要になるため、忘れずに準備しましょう。
申請後は、以下のような流れで認定審査が行われます。
【要介護認定の流れ】
- 申請
- 認定調査・主治医意見書作成
- 審査判定
- 認定
まずは調査員が自宅や施設などを訪問して、申請者の心身の状態を確認します。また主治医に主治医意見書の作成を依頼します。
調査と主治医意見書の作成が終わると、それらをもとに市区町村の介護認定審査会でコンピュータと審査員による審査が行われ、以下のどれかに認定されます。
【要介護認定の区分】
- 要支援1
- 要支援2
- 要介護1
- 要介護2
- 要介護3
- 要介護4
- 要介護5
- 非該当
実際に介護(介護予防)サービスを利用する場合は、介護(介護予防)サービス計画書、いわゆるケアプランの作成が必要になります。
地域包括支援センターや、市区町村の指定を受けたケアプラン作成事業者などに作成を依頼しましょう。
(※9、10、11)
まとめ
高齢者のてんかんは、抗てんかん薬により比較的コントロールしやすいと言われています。(※5)そのため診断が早いほど、症状に悩む時間を短くできる可能性があります。
本記事を読んで「もしかしたら」と思ったら、できるだけ早めに医療機関を受診するよう、ご本人に呼びかけてみてください。
高齢者のてんかんの場合、ご本人だけでは症状を説明できないことも多いため、受診の際にはご家族や周囲の方が付き添われることをおすすめします。
参考
※5.認知症と間違えやすい“高齢発症てんかん”そのポイントと治療|慢性期.com
※6.高齢者の「てんかん」にご注意を!〜認知症と診断されていることも…〜|ふなもとクリニック
※8.てんかんのある人が利用できる福祉制度 3つのサポート|神戸大学医学部附属病院
※9.参考(3)介護保健制度における要介護認定の仕組み|厚生労働省
この記事を監修した人
CBD JAPAN 編集部
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