てんかんで利用できる自立支援医療制度とは?メリット・デメリットも紹介
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2024年9月11日

てんかんで利用できる自立支援医療制度とは?メリット・デメリットも紹介

てんかん発作をコントロールするためには、定期的に医療機関を受診して、適切な治療を受ける必要があります。(※1)

しかし受診には医療費がかかるため、負担に感じる方も少なくないでしょう。

そんな方に利用を検討してみてほしいのが、自立支援医療制度です。医療費の自己負担額を軽減し、自立した生活を送ることができるようサポートしてくれる制度になります。

本記事ではてんかんの方に向けて、自立支援医療制度の概要やメリット・デメリット、申請方法などを解説します。

自立支援医療制度とは?


自立支援医療制度は、心身の障害を治療する際にかかる費用を、一部公費負担する制度です。(※2)

制度を利用するためには、市区町村の担当窓口にてあらかじめ対象となる医療機関や薬局などを申請し、登録しておく必要があります。(※3)

登録していない機関での治療費は対象外となるため、注意が必要です。また登録機関であっても、入院にかかる費用や公的保険適応外の治療費などは対象外となるため、その点も理解しておきましょう。(※3)

自立支援医療制度の種類は?


自立支援医療制度は、症状や年齢により「精神通院医療」「更生医療」「育成医療」の3種類に分類されます。

精神通院医療

精神疾患により、通院での治療を続ける必要がある方が対象となります。(※4)

【対象となる精神疾患の例(※5)】

  • 統合失調症
  • うつ病や躁うつ病などの気分障害
  • 不安障害
  • 薬物などの精神作用物質による急性中毒や依存症
  • てんかん
  • 知的障害

現在、症状がほとんど出ていない方であっても、軽快状態の維持や再発予防のために、通院治療を続ける必要がある場合は対象となります。(※4)

更生医療 

障害者手帳を持っている18歳以上の方が、その障害を軽減する、あるいは悪化を防ぐための治療を行う際に対象となります。(※6)

【対象となる障害と標準的な治療の例(※7)】

  • 白内障→水晶体摘出手術
  • 鼓膜穿孔(せんこう)→穿孔閉鎖術
  • 関節拘縮(こうしゅく)、関節硬直 → 形成術、人工関節置換術
  • 後天性心疾患 → ペースメーカー埋込み手術
  • 腎臓機能障害 → 人工透析療法、腎臓移植術(抗免疫療法を含む)

育成医療

身体に障害がある、あるいは放置すると将来障害が残ると認められる18際未満の児童のうち、手術などにより確実な治療効果が期待できる方が対象となります。(※8)

【対象となる障害と標準的な治療の例(※8)】

  • 先天性耳奇形 → 形成術
  • 口蓋裂→ 形成術
  • 先天性股関節脱臼、脊椎側彎症(わんしょう)、くる病→関節形成術、関節置換術、及び義肢装着のための切断端形成術
  • 先天性心疾患 → 弁口、心室心房中隔に対する手術
  • 肝臓機能障害 → 肝臓移植術(抗免疫療法を含む)
  • 小腸機能障害 → 中心静脈栄養法

てんかんは自立支援医療制度の対象になる?


てんかんと診断されて通院中の方は、自立支援医療制度の精神通院医療の対象となります。

子どもから高齢者まで年齢は関係ありません。また現在発作に悩まされている方はもちろん、発作を抑えられている方も、再発予防のために通院中であれば申請可能です。

(※9)

てんかんの方が自立支援医療制度で受けられるサポートは?  


てんかんの方が自立支援医療制度を利用すると、医療費の自己負担額を軽減することができます。

医療費の自己負担割合が1割に 

てんかんの方が自立支援医療制度を利用すると、医療費の自己負担割合が1割になります。

通常であれば病院や診療所などを受診した際には、公的保険適応の医療費のうち3割を自己負担しているはずです。自立支援医療制度を利用すると、この医療費を1割に軽減できます。

例えば登録済みの医療機関において7,000円の医療費がかかった場合、通常は医療保険により自己負担額は3割分の2,100円となりますが、制度を利用すると1割分の700円にできるという具合です。

ただし医療費と一口に言っても、対象になるものとならないものとがあるため、注意が必要です。

(※5)

【対象となる医療、対象とならない医療の例(※3)】

  • 対象となる医療

外来診療、外来での投薬・検査、往診、訪問看護、デイケアなど

  • 対象とならない医療

入院での治療、公的保険適用外の治療や投薬、精神疾患と関係ない病気の治療など

1カ月の医療費に上限が設定 

てんかんの方が自立支援医療制度を利用すると、1カ月あたりの医療費に上限が設けられます。

上限額は世帯(通院される方と同じ健康保険などの公的医療保険に加入する方)の所得に応じて決定され、多くの医療費がかかった時も、上限額を超えて支払う必要がなくなります。

なお令和6年3月31日までは以下の表のように上限額が決定されました。令和6年4月1日以降の取り扱いについては自治体により異なる可能性があるため、担当窓口に問い合わせてください。

(※5)

【てんかんの方が自立支援医療制度を利用した場合の1カ月あたりの医療負担上限額(令和6年3月31日まで)(※3、5)】

世帯所得状況 負担上限月額
生活保護受給世帯 0円
市町村民税非課税世帯であり、受給者の収入が80万円以下 2,500円
市町村民税非課税世帯であり、受給者の収入が80万円より上 5,000円
市町村民税33,000円未満 5,000円
市町村民税33,000円以上235,000円未満 10,000円
市町村民税235,000円以上 20,000円

てんかんの方が自立支援医療制度を申請・利用する方法は? 


てんかんの方が自立支援医療制度を利用するためには、必要書類を揃えた上で市区町村の担当窓口にて申請をし、「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を交付される必要があります。

交付された自立支援医療受給者証と自己負担上限額管理票は、登録医療機関の利用時に毎回提示します。

申請の流れ

申請は以下の流れで行います。

【自立支援医療制度(精神通院医療)申請の流れ】

  1. 市区町村の担当窓口などで申請書や診断書を入手

申請書や診断書は市区町村の担当窓口やホームページから入手できます。医療機関でも入手できる場合があります。

2.申請書に記入

入手した申請書に必要事項を記入します。

3.医師に診断書作成を依頼

自立支援医療制度は指定の医療機関でしか利用できません。

通院中の医療機関が指定機関であることを確認の上、医師に診断書の作成を依頼します。

4.必要書類を市区町村に提出

申請書、診断書、その他必要書類一式を、市区町村の担当窓口に提出します。

5.「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」が交付

2〜3カ月ほどで「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限管理票」が交付されます。

市区町村ごとに異なりますが、申請から交付まではおおむね2〜3カ月かかるため、手続きは早めに済ませましょう。

(※9、10、11)

申請に必要な書類

申請に必要な書類は自治体ごとに異なりますが、おおむね以下の通りです。

【自立支援医療制度(精神通院医療)の申請に必要な書類】

  • 自立支援医療支給認定申請書(精神通院)
  • 医師による自立支援医療制度指定の診断書(精神通院)
  • 世帯の所得を確認できる資料

市町村民税の課税証明書、市町村民税の非課税証明書、生活保護受給証明書など

  • 健康保険証(コピー可)
  • マイナンバーの確認書類

マイナンバーカード、またはマイナンバーの記載がある住民票+運転免許証など

(※9)

申請後の利用・更新方法 

申請をして受給が認められると、「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」が交付されます。

登録した医療機関や薬局などを利用する際には、この二つを提示することで制度を利用できます。

ただし受給者証は永久に使えるわけではありません。有効期間が1年間となっているため、有効期間終了後も引き続き制度を利用する場合には更新申請を行いましょう。

更新申請はおおむね有効期間終了の3カ月前から可能です。病態や治療方針に変更がない場合は、2回に1回は診断書の省略ができることもあるため、申請した市区町村に問い合わせてみてください。

(※5)

てんかんの方が自立支援医療制度を利用するメリットは?


てんかんの方が自立支援医療制度を利用すると、医療費の自己負担額を軽減できます。

また就労移行支援サービスを利用する際に役立つこともあります。

医療費の自己負担額が軽減 

自立支援医療制度を利用する最大のメリットは、医療費の自己負担額を軽減できることです。

てんかん治療の中心は抗てんかん薬の服用になりますが、薬の中止を試みるタイミングは、最終発作後2〜4年が経過し、脳波の異常が2年以上消失している状態と言われています。

また薬の中止後も再発が見られないか3年間は観察が必要です。(※12)

このようにてんかんの治療には、何年もの長い期間を要します。その間にかかる医療費を軽減できることは、治療を続ける上で大きな安心材料となるはずです。

就労移行支援サービスを利用する際に役立つ

自立支援医療受給者証を持っていると、就労移行支援サービスを利用する際に役立つ可能性があります。

就労移行支援とは、就労を希望する65歳未満の障害者に対して提供される福祉サービスです。(※13)

就労に必要な知識や能力を身につけるための訓練を受けたり、就労に関する相談ができたりします。(※14)

就労移行支援サービスの利用要件には「精神障害のある人」というものが含まれます。

自立支援医療受給者証は精神障害があることの証明となるため、就労移行支援サービスを利用する際に役立つ可能性があるのです。(※15)

てんかんの方が自立支援医療制度を利用するデメリットは? 


自立支援医療制度の精神通院医療は、医療費の自己負担額を軽減し、治療を継続しやすくしてくれるものです。

そのため基本的にはデメリットはありませんが、人によっては対象となる医療機関が限定的だと感じたり、利用方法や更新手続きが面倒だと感じたりするかもしれません。

対象となる医療機関が限定的

自立支援医療制度の対象となるのは、あらかじめ申請した医療機関のみです。

同じてんかんという病気に対する治療であっても、申請していない医療機関でかかった医療費は軽減されないため注意が必要です。

また医療費と一口に言っても、入院での治療、公的保険適用外の治療や投薬などは対象になりません。対象となるケース、ならないケースをしっかりと理解しておく必要があります。

(※3)

証明書などの提示が毎回必要

自立支援医療制度を利用するためには、登録医療機関にかかる度に「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を提示しなければなりません。

提示できない場合、その場では公費適用外として自己負担で費用を徴収されることになります。

後日再び、医療機関の窓口を訪れて「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を提示すれば返金手続きをしてもらうことは可能です。

しかし再訪の手間がかかる上、手続きには期日もあるため、受診の際には忘れずに持参したいところです。

(※16、※17)

毎年更新が必要

自立支援医療受給者証の有効期間は1年間となっています。

1年を超えて制度を利用したい場合には、毎年更新手続きが必要になるため、面倒に感じる方も少なくないでしょう。(※5)

しかし病態や治療方針に変更がない場合、2回に1回は診断書の省略ができる可能性があります。(※5)

また自治体の中には、更新手続き開始の1週間前にLINEで通知してくれるサービスを開始しているところもあります。(※18)

手続きの簡略化やスケジュール管理のサポートも徐々に進んでいるため、初めての申請手続きの時ほどは負担を感じずに済むかもしれません。

てんかんの方が利用できるサービスは?


自立支援医療制度の他にも、てんかんの方が利用できるサービスはあります。

特に「高額療養費制度」「精神障害者保健福祉手帳」「障害年金」は自立支援医療制度と一緒に利用できる可能性があるため、検討してみましょう。

高額療養費制度 

高額療養費制度とは、医療機関や薬局で支払った額がひと月(月の初めから終わりまで)の上限額を超えた場合に、その超えた額を支給する制度です。

保健適用の診療などが対象となり、上限額は年齢や所得により異なります。

入院や手術のためにひと月の医療費が高額になった時は、利用を検討してみましょう。

申請は、加入している公的医療保険(健康保険組合、市区町村国保、共済組合など)に行います。

(※9、※19)

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、持ち主が一定程度の精神障害の状態にあることを証明するものです。

1級から3級までの等級に分かれており、等級に応じてさまざまな日常サービスや就労支援サービス、税金面での優遇などが受けられます。

てんかんで初めて病院を受診した日から6カ月以上経過していて、日常や社会生活に困難がある方は申請可能です。

申請は、市区町村の担当窓口から行います。

(※9、※20)

障害年金

障害年金は、障害により生活や仕事などが制限される方に支給される年金です。現役世代でも対象になります。

てんかんで初めて病院を受診した日から1年6カ月以上経過していて、発作のために日常や社会生活に困難がある方、さらに診断前に年金を納付していて現在65歳未満の方が申請可能です。

申請手続きはやや複雑になるため、事前に日本年金機構の「ねんきんダイヤル」に相談されることをおすすめします。

(※9、※21、※22)

自立支援医療制度に関するよくある質問 


最後に、自立支援医療制度に関するよくある質問にお答えします。

利用するとてんかんが会社や学校にばれてしまう?

会社や職場に通知されることはありません。利用したことを把握できるのは市区町村、医療機関、保険組合のみです。

(※9、※23)

登録医療機関や薬局は変更できる?

変更可能です。お住まいの市区町村の窓口にて手続きをしてください。

(※9)

申請前に支払った医療費は返ってくる?

申請前にさかのぼっての請求はできません。申請日以降にかかった医療費が対象となります。

(※9)

まとめ


てんかんと診断されて通院中の方は、自立支援医療制度の対象になります。(※9)

自立支援医療制度には、対象となる医療機関が限定される、証明書の提示や更新手続きに手間がかかるなど、人によってはデメリットに感じる部分もあるかもしれません。(※3、5、16、17)

しかし医療費の自己負担額を軽減できるというメリットは、多くの方にとってデメリットを上回るはずです。

今後も安心して治療を継続できるよう、利用を検討してみましょう。

参照:

※1.てんかんのある人に就労の機会を!| 静岡てんかん・神経医療センター

※2.自立支援医療制度の概要|厚生労働省

※3.てんかんのある人が利用できる福祉制度3つのサポート|神戸大学医学部附属病院

※4.自立支援医療(精神通院医療)の概要|厚生労働省

※5.自立支援医療(精神通院医療)について|厚生労働省

※6.自立支援医療について|中四国エイズセンター

※7.自立支援医療(更生医療)の概要|厚生労働省

※8.自立支援医療(育成医療)の概要|厚生労働省

※9.てんかん患者さんのための自立支援医療制度|てんかん・運動異常生理学講座

※10.【都民の皆様へ】自立支援医療(精神通院医療)の申請手続き|東京都中部総合精神保健福祉センター

※11.自立支援医療(精神通院医療)|新座市

※12.てんかん治療|千葉大学大学院医学研究院脳神経外科学 千葉大学病院脳神経外科

※13.就労移行支援について|厚生労働省

※14.就労移行支援|WAM NET

※15.就労移行支援サービスを受けるために必要な受給者証について|at GP

※16.自立支援医療(精神通院医療)についてのQ&A|東京都福祉局

※17.保険証・公費をお忘れの場合|北総メンタルクリニック

※18.自立支援医療(精神通院医療)について|東京都福祉局

※19.高額療養費制度を利用される皆様へ|厚生労働省保険局

※20.障害者手帳|厚生労働省

※21.障害年金|日本年金機構

※22.障害年金の制度をご存じですか?がんや糖尿病など内部疾患のかたも対象です|政府広報オンライン

※23.【精神科医師記載】自立支援医療を利用すると会社にバレる?!板橋区役所前メンタルクリニック

この記事を監修した人

CBD JAPAN 編集部

CBD JAPANは2021年10月に設立された企業で、「心身の本来の力を引き出し、健康で明るい社会を作る」というミッションを掲げています。コラムは全て下記の監修者のもとで、コンテンツ制作ポリシーに従い制作しております。

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