米・バイデン大統領が「大麻恩赦」を行う理由と狙い
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2023年6月28日

米・バイデン大統領が「大麻恩赦」を行う理由と狙い

バイデン大統領は、2022年10月6日に「連邦法を根拠に、大麻の使用によって有罪判決を受けた人」のうち、およそ6500人に恩赦を与えると発表したことが記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。
さらに、現行法では大麻を一番リスクの高い薬物としているが、それも見直すとの発言も。

なぜ大麻恩赦を行うと宣言したのでしょうか?この発言に至った理由や狙いを詳しくみていきましょう。

※恩赦(おんしゃ)・・裁判できまった刑罰を、特別な恩典によって許し、または軽くすること。

バイデン大統領が大麻使用者に対する恩赦について発表

バイデン大統領は、2022年10月6日に「連邦法を根拠に、大麻の使用によって有罪判決を受けた人」のうち、およそ6500人に恩赦を与えると発表しました。さらに、現行法では大麻を一番リスクの高い薬物としていますが、それも見直すと述べました。

「現行法」とは何のことか

ここでいう「現行法」とは、ニクソン元大統領が1970年に作った「規制薬物法(CSA)」のことです。この法律は、大麻をLSDやヘロインなどと同レベルで最もリスクの高い薬物としてカテゴライズしてきました。その間に是正しようとする細かな動きはあったものの、それ以来50年以上続いてきた大麻に関する「歪な見方・歪な扱い」を大きく変えようとする動きが始まっていると言えます。

「大麻所持・使用だけで投獄されるべきではない」のはなぜ?

バイデン氏は同日の動画メッセージで、「誰も大麻を所持もしくは使用しただけで投獄されるべきでない」と明確にコメントしました。この発言は、「有無を言わさず大麻は禁忌である」という考えが根付いている日本人にとっては理解しにくいものかもしれませんね。

本来大麻のリスクは低い

しかし、まず一つシンプルな根拠があります。それは「本来大麻のリスクはそれほど高くない」ということ。実は大麻のトータルの危険度は、カフェインと同レベルとされています。
それにもかかわらず、先述した法律「CSA」では、「最も危険(スケジュール1)」とみなされています。

本来の大麻のリスクはそれほど高くない

「CSAは薬物全般に厳しい」のであれば、全体的に平等であるためまだ合理的と言えますが、実際にはそうではありませんでした。現に、大麻より依存性・危険性が高いと言われているメタンフェタミンやコカインは「スケジュール2」にカテゴライズされているのが現状です。
これにはCSAを作ったニクソン氏の「大麻嫌い」という個人的な考えが影響されていると見られており、以前より専門家からの批判も集まっていました。

アメリカの大麻合法化の歴史

さて、アメリカの大麻合法化に関する歴史を見ていきましょう。
先述の通り、半世紀以上前にCSAが制定され、ニクソン氏が麻薬との闘いを宣言。1980年代にはレーガン元大統領の妻がドラッグ撲滅運動を推進し、大麻をはじめとする違法薬物の販売者・所有者が大量に検挙されることに。

逮捕

これにより違法薬物の使用率は下がりましたが、連邦検事の労力が薬物関連の事柄に多く使われるようになったり、刑務所や拘置所の数の余裕がなくなるなどの問題が発生。
さらに違法大麻の販売を通じて犯罪集団に資金が流れる、未成年者による使用や大麻の乱用を防止できない、質の低い大麻が流通するという事態も発生しました。

これらを受けてアメリカは、「大麻を合法にして、大麻市場を制御する」という方向に動き出しました。そうすることで大麻関連の事に割く労力、州の経費、問題のある大麻利用などを軽減できるという狙いです。

また、例えば1996年にカリフォルニア州がアメリカで初めて医療用大麻を合法化し、2016年には嗜好用大麻も合法化されました。また、2021年にはニューヨーク州で大麻が完全に合法化されており、アメリカは国全体として「大麻の完全合法化」へと進んでいると言えますね。(ちなみにカナダやウルグアイなどアメリカ以外でも嗜好用大麻の合法化が行われています。)

連邦法と州法の矛盾について

アメリカは国全体と州単位で大麻の法律に違いがある
だが、その一方で連邦法(国としての法律)としては、大麻はいまだに「違法薬物」という扱いになっています。つまり「州単位では合法、国単位では違法」という矛盾した状態。

そしてバイデン氏は、「連邦法における大麻の非犯罪化」も公約としています。いまだこの公約は実現されていないものの、同氏は2年前の大統領選の段階では同じスローガンを主張していたため、彼としては、どうしても実現しなければならないことの一つなのです。
野党共和党の議員などからは、「選挙で勝つための思惑である」などの指摘も出ており、それも完全には否定できませんが、バイデン氏の主張は合理的なもの。また、単なる理想論だけで突き進むよりも、政治的思惑もある方が精力的に取り組める部分もあるのではないでしょうか。

大麻合法化には人種差別を是正する狙いもある

また、バイデン氏は「大麻による逮捕に関する黒人・白人間の格差」にも触れています。実際、アメリカ自由人協会(ALCU)が、2010年からの8年間における大麻関係の逮捕データを分析したところ、「黒人も白人も大麻使用者の比率は同レベルであるにもかかわらず、黒人は白人の3倍の割合で逮捕されている」ことが明らかになっています。

人種による差別

さらに、アメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)のノラ所長は、2021年に「薬物の犯罪化は、有色人種に悪いバランスで影響を与えている。このことは研究によって明確に証明されている」と述べています。
加えて、「大麻を違法にしたところ黒人・白人間で格差が生まれた」のではなく、「黒人をはじめとする有色人種を逮捕するために、大麻が違法とされた」のではないかという見方さえあるとの意見も。
いずれにしてもバイデン氏の大麻をめぐる今回の動きには、黒人・白人間をはじめとする人種差別を是正する狙いもあることがわかります。

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